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東京児童協会コラム
- 研究協力
保育士の「見る力」を可視化する。研究機関との連携で進める、保育の質向上と専門性の育成

東京都内に24の認可保育園と認定こども園を運営する社会福祉法人 東京児童協会では、保育の現場と研究機関・専門家がつながることで、子どもたちにより質の高い体験を届けるための取り組みを進めています。
保育士の専門性は、日々の子どもとの関わりの中で培われるものです。
子どもの表情の変化、小さな仕草、体調や気持ちの揺れ。その一つひとつを捉え、その子に必要な援助を判断する力は、保育士が経験を積み重ねる中で育まれていきます。
一方で、こうした専門的な判断や技術は、これまで「経験の中で身につくもの」とされ、目に見える形で共有することが難しいものでした。
そこで東京児童協会では、保育士が日々行っている判断や技術を客観的に振り返り、次世代の保育士育成や保育の質向上につなげるため、保育実践をデータとして捉える取り組みに協力しています。
目次
保育士の「見る力」に着目した研究

その一環として今回、学校法人江戸川学園 江戸川大学で発達心理学(子ども学)を専門に研究されている石橋美香子先生、元東京大学・発達保育実践政策学センター(CEDEP)、現学習院大学非常勤講師の高橋翠先生が実施する、ウェアラブル型アイトラッカー(視線計測メガネ)を用いた「食事介助中の保育士と園児の視線行動の関係を調べるための研究」に協力しました。
この研究では、保育士経験年数1年から29年の保育士14名を対象に、離乳食期(7か月〜12か月頃)の子どもへの食事介助場面で、保育士がどこに視線を向けているのかを計測しました。
食事介助では、子どもが安全に食べられているか、しっかり噛めているか、飲み込めているか、食事を楽しめているかなど、多くの情報を瞬時に判断する必要があります。
今回の研究では、その「見る」という行為をデータとして可視化しました。
経験によって育まれる「必要な情報を捉える力」

計測を通じて、経験を重ねた保育士が、子どもの安全に関わる重要な情報をどのように捉えているのか、その一端が見えてきました。
経験豊富な保育士は、ただ広く周囲を見るのではなく、子どもの小さな変化を捉えるために、必要な情報へ自然と注意を向けています。
一方、経験の浅い保育士は視線がさまざまな場所へ向かう傾向が見られました。
これは「見る力が不足している」ということではなく、子どもの表情や食事量、援助のタイミングなど、多くの情報を同時に処理しようとしている段階です。
経験を積み重ねることで、必要な情報を整理し、優先順位を判断する力へと成長していきます。
研究データを、現場の育成へつなげる

東京児童協会が大切にしているのは、研究結果を得ることだけではありません。
可視化された専門性を、日々の保育や研修、人材育成に活かしていくことです。
今回の研究を通して、今後の取り組みとして以下のような可能性が見えてきました。
・経験者の「視線」を学びにつなげる研修
ベテラン保育士がどのような視点で子どもを見ているのかを共有することで、これまで言葉では伝えにくかった専門的な判断を、新たな学びとして届けることができます。
・経験年数に応じた段階的な育成
新人、中堅、経験者それぞれの段階に合わせて、必要な力を整理し、成長を支える仕組みづくりにつなげていきます。
・安全を支える環境づくり
複数の子どもを同時に援助する場面では、より高度な判断が求められます。研究で得られた知見を、人員配置や保育環境の検討にも活かしていきます。
研究から学びへ ―現場へのフィードバック
2025年に東京児童協会が協力した本研究は、その後分析が進められ、研究成果としてまとめられました。今回、その結果を実際の保育現場へ還元する機会として、実証実験に参加した保育士や2026年度入職の職員も交え、石橋美香子先生より研究結果のご報告をいただきました。
研究成果を共有することで、保育士一人ひとりが自身の保育を振り返り、専門性への理解を深める機会となりました。
研究に参加した保育士たちからは、
「自分がどこを見ているのか、意識したことがなかったので、どこを見ているんだろう? ということを初めて意識した」
「経験年数が長い保育士ほど全体を見ていると思っていたけど、口元を見ているという結果はおもしろかった」
「口元を見るということが大事だという学びになりました」
といった声が聞かれました。
普段何気なく行っている保育を、映像やデータを通して振り返ることは、自身の専門性に気づくきっかけにもなります。
私たちの取り組みが世界へ
今回の研究成果は、ヨーロッパ乳幼児教育学会(EECERA: European Early Childhood Education Research Association)第33回年次大会において、
"Gaze Behavior of Nursery Teachers during Mealtime Assistance in Childcare Facilities: An Analysis Using Wearable Eye-Trackers"
(石橋美香子・高橋翠、2025)
として発表されました。
EECERAは世界各国の乳幼児教育研究者や実践者が集う国際学会であり、保育に関する最新の研究成果が共有される場です。
東京児童協会の保育現場で行われた実践と研究が、国内だけでなく国際的な研究コミュニティでも紹介されたことは、保育士が日々培っている専門性の価値を改めて示す機会となりました。
保育士の「見る力」や瞬時の判断は、これまで経験として語られることが多いものでした。しかし今回の研究では、その専門性の一部をデータとして可視化し、保育の質向上や人材育成に活かせる知見として発信することができました。
※本研究は、石橋美香子・高橋翠(2025)による EECERA 2025発表「Gaze Behavior of Nursery Teachers during Mealtime Assistance in Childcare Facilities: An Analysis Using Wearable Eye-Trackers」に基づいています。
研究業績掲載:https://researchmap.jp/mikakoishibashi
保育士が学び続け、専門性を伸ばせる環境へ

東京児童協会では、研究機関との連携を通じて、現場で培われてきた保育士の経験や技術を「学べる専門性」として共有し、次世代の保育へつなげています。
保育士一人ひとりが自身の専門性に気づき、さらに成長していける環境をつくること。それが、子どもたちの豊かな育ちを支えることにつながると考えています。
これからも東京児童協会は、研究の知見と現場の実践を結びながら、保育士が専門性を高め続けられる環境づくりと、質の高い保育の実現に取り組んでいきます。
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