Column
東京児童協会コラム
- 東京児童協会の保育
子どもの未来をつくる保育とは? 東京児童協会が大切にする“4つの柱”~前編~

保育園は、単なる「子どもを預かる場所」ではなく、子どもたちの人生の基盤を形成する重要な教育機関。
東京児童協会は、保育方針として、「生きる力」「思いやり」「夢」そして「学びに向かう力」という4つの育みの柱を軸に、子どもたちの健やかな成長を支える保育を実践しています。
今回は、東京児童協会の菊地元樹さんに、教育理念の成り立ちから、日々の保育現場での実践、そして未来への展望までのお話をお聞きしました。
保護者にとっても保育者にとっても、子どもの可能性を最大限に引き出すヒントが詰まった貴重なインタビューとなりました。
4つの柱はどのように生まれたのか
――東京児童協会の保育方針である4つの柱(夢を育む、生きる力を育む、思いやりを育む、学びに向かう力を育む)は、どのような経緯でできたものですか?
もともとは、3つの柱(夢を育む、生きる力を育む、思いやりを育む)からスタートしています。現理事長の菊池政幸が、「大きなおうち」の理念のもと、スウェーデン保育研究会での学びや、スウェーデンの教育学者エレン・ケイの思想を参考に策定したのが原点です。2023年4月の「こども基本法」施行により、「学びに向かう力」が追加され、現在の4つの柱となりました。
「生きる力」とは何を指すのか
――まず、「生きる力」についてですが、東京児童協会にとってどういう力ですか?
子どもは、自分をわかってもらうことから安心感を持ち、情緒が安定します。すると、自分の思いを表現したり、意欲を持つことができるようになります。受け入れてもらうことで、人の気持ちを理解できるようになります。私たちは、子どもたちの笑顔と元気な挨拶こそ、生きる力の証だと考えています。
――日々の保育の中で、子どもたちが生きる力を発揮していると感じるのはどんな場面ですか?
保育園での生活、活動全てがそれに該当していると思います。お手伝い活動や日常的に関われる異年齢保育など、家庭的な保育園の中での生活は、家族のような環境でもあるので、その中で生きる力を育んでいると感じます。

――現代の子どもたちが、これからの社会を力強く生きていくために、幼児期に最も育てたい力は何だと思いますか?
「自分の命を守る力」です。今、日本では、子どもの死因の上位に“自殺”があるという現実があります。だからこそ、幼児期に「自分はここにいていいんだ」と思える感覚。つまり自己肯定感をしっかり育てることが、何より重要だと感じています。
自分を大切に思える子は、危険を回避する行動が自然に身につきますし、困ったときに誰かに助けを求めることができます。
――保育の現場で、自己肯定感を高めることを強く意識されているんですね。
“自分の命を守る力”の土台になるのが、自己肯定感なんです。そして、その自己肯定感を育てる最初の場所が保育園です。大人に受け止められ、安心できる環境で日々を過ごすこと。それが「自分は大丈夫」「自分は価値のある存在なんだ」という感覚につながっていきます。だからこそ、私たちは保育園の中での関わりを本当に大切にしています。
子どもたちが自分の命を大切にできるように、その力を育てることが、私たちの使命だと考えています。
――主体性を尊重する保育も、その一環ですか?
そうです。5歳児は、お昼を食べ終えたら、お手伝い活動として小さな子たちのテーブルの下に落ちているゴミを拾ったり、コップを洗ったりします。それが終わると、先生が絵本を読んでくれる場所に集合し、「みんな集まったよ」と先生を呼びに行くんです。言われるのではなく、自分たちで動く。保育園で、毎日の生活リズムを自分たちでつくることは、「自分の居場所を自分でつくる」体験となり、命を大切にできる感覚、つまり自己肯定感につながっていきます。
思いやりを自然に育てるには
――次に、「思いやりを育む」についてですが、思いやりを教えるというのはすごく難しいように感じるのですが、自然な形で子どもたちの中に育んでいくにはどのような工夫をされていますか?
小さい時からの積み重ねが大事です。例えば1歳児は発達上噛みつきが多い年齢です。言葉を発することができないから、自分の欲しいおもちゃを誰かが持っていたら、噛み付いて取りに行く。これは、言葉が発せない、自分の気持ちを表現できないという現れなんです。
――噛み付きは、気持ちを伝えられないことの表れなんですね。
そうなんです。園では、そういう段階から「か~して」と先生が代弁してあげて、自分の言葉で表現できるように伝えていきます。大人の真似をすることによって少しずつ成長していくんです。
――見て学ぶんですね。
最初はうまくいかなくて大泣きすることもありますが、先生が代弁しているのを見ているうちに、少しずつできるようになっていくんです。さらに、東京児童協会では異年齢保育を取り入れています。
――異年齢保育がここに生きるんですね。
小さい子どもたちのお世話をするという環境があることで、「小さい子の気持ちを代弁する」という行動を、今度は子ども同士が自然とはじめるようになります。子どもの成長の早さにはいつも驚かされます。
前編では、子どもたちの毎日の生活の中で育まれる“基礎の力”を伺いました。
後編では、子どもたちが未来へ踏み出すための「夢」と「学びに向かう力」について、さらにお話を聞いていきます。

