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東京児童協会コラム
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園内の事故防止の取り組み|東京児童協会
厚生労働省の発表によると、子どもの死亡原因の上位は不慮の事故、つまり〝予防できる事故〟によるものです。記憶にも新しい、送迎バス内の園児置き去り事故はその一例ですが、本来防げるはずの事故によって、毎年、多くの子どもたちの命が失われています。
園児の命を守るために、東京児童協会が運営する保育園・こども園で行なっている取り組み、園内のリスクマネジメントについて、7人の保育園看護師に取材しました。
「ヒヤリハット」をなくしていく
「どうすれば事故を防げるか」ということは当然大事ですが、その前に、「いかに最小限に留められるか」という点を考えていくことが、リスクマネジメントにおいては重要です。
『ハインリッヒの法則』というものがあります。1つの重大事故の背景には、29の軽微な事故があり、その背景には300の小さなミスやヒヤッとしたことが存在するという、事故発生の経験則です。重大な事故は人為的に制御できるものではなく、底にある「ヒヤリ・ハット」をなくしていくことが重要だと言われています。
当法人では、各園で事故が発生した場合、次の書類を看護師が作成し、さらにチャットツールのスラックなどを使用して全園で情報を共有し、事故の再発防止や重大事故の抑制につなげています。
- 『軽傷報告書』
子どもが保育園に登園してから親へ引き渡すまでに起きた事故の詳細を記載し、職員や保護者で情報を共有します。 - 『ヒヤリハット報告書』
ヒヤリハットとは、危ない場面があったけれども、幸い重大な事故には至らなかった事象のことを指しますが、「ヒヤッ」とした出来事をクラスの先生に伝えることを目的に作成しています。ヒヤリハットは事故に対する意識が低いと気がつくこともできません。言葉や文章にすることで、危険なことに気がつき、軽傷事故が減っていくと考えられます。 - 『事故報告書』
4枚綴りの報告書で、1枚目は事故の概要を書き込む用紙、2、3枚目は事故を分析できるように、「シェルモデル」を取り入れています。
シャルモデルとは、人によるミス(ヒューマンエラー)が発生する要因を、「事故の種類」「事故発生場所」「事故の状況」「初回病院処置内容」の4つに分けて考える分析手法で、保護者や医師の話した内容をそのまま記載します。
どんなに軽微な事故であっても漏らさず報告することで、全園での情報共有が可能となります。そして、その情報をもとに職員間で策を練って、再発防止につなげていきます。大きな事故をなくすためには、まずは、小さな事故を減らしていくことが大事なんです。
事故の予測から事故の防止を図る
事故防止のためには、目の前の事故だけを解決するのではなく、その原因を考えることが大切です。当法人では、各園での研修や講習の実施を通じて、職員のリスクマネジメント能力の向上に努めています。
その一つが「事故の予測」です。
たとえば、子どもたちの散歩中に考えられる事故を予測してみましょう。まず、事故の原因として予測できるのが、「散歩中にルールを守らない」「先生の話を聞かない」「帽子をきちんと被らない」などの行動です。
それらをさらに分析していくと、次のような予測ができるでしょう
「散歩中にルールを守らない」ーーー横を向いて歩いて、壁や看板、電柱にぶつかってしまう
「先生の話を聞かない」ーーー次の行動がわからなくなる
「帽子をきちんと被らない」ーーー熱中症になる
同様に、乳幼児の散歩の事故、保育室内での事故、食事での事故など、保育現場それぞれの場面で起こりうる事故の原因を予想していきます。危険の因子が顕在化されれば、事故を回避する対応策が見えてきます。
また、各園では、園児たちに向けた安全教室を開き、子どもたちへの啓蒙をしています。警察署の人に来てもらい交通安全教室を開催したり、健康教育の一環で行なっている安全教育では「歯ブラシを持ったまま歩いたらどうなる?」「鼻の中にモノを入れたらどうなる?」と子どもたちに問いかけをし、危険なことを教えています。
また、5歳児の園児を対象に『危険予知トレーニング』を行なっている園もあります。
保育室を写した大きな写真を園児たちに見せて、どこに危険が隠れているのか考えさせるんです。そして、保育室のどの場所にどんな危険が予測されるのか、またそれを防ぐためには、どうすればいいのかを紙に書いて、保育室に実際に貼ってみて、〝危険の見える化〟をします。
子どもたちの指摘によって、私たち職員も、見逃していた危険にハッと気づくことも多いんですよ。
重大事故の検証で事故に備える
世間で起きた重大事故を取り上げて検証することも、事故防止の有効な取り組みとして行なっています。
たとえば、実際にある幼稚園で起きた事故のケースを例に取ります。
デッキに置いてあるサッカーゴールのネットに足を取られ、転倒した6歳児の事故について、はたして、この事故はどのようにすれば防げたのか、また、どうしたら被害を最小限に留められたのかを皆で考えます。
たとえば、この事故の場合、このような検証ができるでしょう。
物的環境については、本来、子どもが自由に行き来できる保育環境に、「近づいてはいけない」環境がある事がまず問題であり、危険が予測される場所にはプランターを置いたり、柵をつけたりと子どもが近づけない環境構成が必要です。
また転倒後の対応については、事故発生の子どもの状況確認のときには、目視で見える範囲内の怪我を確認した後、「大丈夫?」だけではなく、「5W1H 」【When (いつ)、Where (どこで)、Who (誰が)、What (何を)、Why (なぜ)、How (どのように) 】で質問すべきだという認識を持つことも大事です。
くわえて、子ども自身が「約束を破ったから怪我をしてしまった」という引け目や負い目がある場合には、「近づいてはいけないお約束だったよね?」「だから言ったでしょう?」という言葉掛けは厳禁で、子どもが萎縮し、体調の異常を伝えられなくなってしまうことがある、ということも気に留めておくべきです。
重大事故が起こったときに、それを対岸の火事だと思わず、自園で起こったこととして検証してみることが、事故の回避につながるんです。
安全な教育・保育環境を確保するために
事故は必ず起こるものです。起こってしまう事故が重大事故につながらないよう、いかに早い段階でアプローチして防ぐことができるかが重要となります。そのためには、危険性の高さを知っておくことが大事です。
保育園での事故の危険性が高い時間帯は、次の3つです。
1食べる 2寝る 3水遊び
また、安全な教育・保健環境を確保するためには、以下のことに留意する必要があります。
- 子どもの年齢
子どもの発達ごとに起こりやすい事故について知っておくこと - 場所
場所ごとに起こりやすい事故を想定すること。
事故が度々起こっている場所、重大な事故が起こった場所、あるいは重大な事故に発展しなかったが、一歩間違えると重大な事故に発展する可能性があったヒヤリハット事例を重点的に取り上げて、対策を立てておくことも有効。 - 活動内容
定期的に遊具の点検を行なうなど、環境に対する安全対策が重要です。また、公園などの遊具を利用する時のルール作りや遊具を安全に利用するためにはどうすれば良いか、日々の活動の中で子ども達に伝えていく事も重要な事故対策となります。
私たち保育者は、子どものやりたいという気持ちや発達を理解し、寄り添っているからこそ、家庭ではできないたくさんの体験を提供できるのだと思います。
お話をうかがったのは……
小串看護師(中央区・EDO日本橋保育園)
坂本看護師(台東区・台東区立たいとうこども園)
千葉看護師(中野区・橋場そらとみどりの保育園大きなおうち)
馬場看護師(江戸川区・かさい発みらい行きほいくえん)
濱田看護師(新宿区・新宿三つの木保育園もりさんかくしかく)
池辺看護師・岩下看護師(江戸川区・船堀中央保育園)